頬に冷たい雫を感じて
傘を差そうかどうか迷い
空を見上げて立ちすくむ僕は
いつの間にかずぶ濡れさ
霧たちこめるレンガ通り
人波に飲み込まれる度に
聞こえてくるのは懐かしい足音
幻と知りながら振り向く
―あの日からもう随分と経ったのですね―
「雨は嫌いじゃないわ」
「心を洗い流してくれるから」
「罪さえ消えてしまう気がするの」
そんな哀しい言葉ひとつひとつが
今も耳から離れずにこの体を冷やして
ちょうど十回鳴った鐘
水溜りに映る時計台の
余りに寂しそうな響きがまた
あの日を鮮明に描いて
―出逢った奇跡さえ罪だというのですか―
「どうぞ泣いて下さい」
「優しく包んであげますから」
「大丈夫もう独りではないのです」
伝えたかった言葉ひとつひとつを
暗闇の中 降りしきる雨に奪われて
朝露が夜明けに光り
灰色の空見上げてみては
立ちすくむけれど
「今日も貴女を歌います」